デイサービス送迎車の人身事故、1年前に同じ地点で起きたヒヤリハットが活かされず!

自動車事故のヒヤリハットはシートに書いてもムダ

【検討事例】
 ある日の夕方、利用者送迎中のデイサービスの送迎車が、保育園の裏口の付近を通過しようとしました。保育園の裏口には、園児を迎えに来た母親が道路の脇で何人も立ち話をしていたので、運転手はこれを避けて通過しようとしました。その時、立ち話をしている母親の間から園児が飛び出してきて、徐行している送迎車の左前に衝突しました。すぐに119番通報し警察を呼びましたが、幸い軽症で済みました。翌朝のミーティングで、所長が他のドライバーに前日の事故について説明し注意を促すと、ドライバーの一人が「1年前に同じ場所で同じヒヤリハットがありました。今でもヒヤリハット報告書を持っています」と言いました。
■事故防止に活かさせないヒヤリハット
このデイサービスの所長は、日頃から事故防止活動に熱心に取り組み、「ヒヤリハットシートをもっとたくさん出すように」と職員を厳しく指導している人でした。その事故防止活動の管理者が、提出されたヒヤリハットシートの情報を読みもせずにバインダーに眠らせていたのですから、所長は立場がありませんでした。
“ヒヤリとした”“ハッとした”とう事故寸前の体験を記録し、この情報を職員が共有して事故防止に活かすことが、ヒヤリハット活動の目的です。ところが、このデイサービスではヒヤリハットシートを書いて提出することが活動の目的になっていて、ヒヤリハットシートが事故防止活動に全く活かされていませんでした。ヒヤリハット活動の本来の目的が忘れられていて形骸化しているのです。
特養などの施設でも同じことが言えます。特定の利用者などの転倒のヒヤリハット情報なども、シートに書いて提出するだけで、他の職員との情報共有さえできていないのです。せめて「ヒヤリハット情報は毎朝ミーティングで報告する」というルールにして、1年前のヒヤリハット情報を共有していたら、本事例の事故は防げたかもしれません。
■交通事故のヒヤリハット情報はどのように共有すべきか?
 さて、送迎中の自動車事故のヒヤリハットはミーティングで報告するだけで、正確な情報が共有できるのでしょうか?転倒のヒヤリハットであれば「〇〇さんの歩行の介助中に膝折れして転倒しそうになった」という情報を職員が共有できれば、他の職員もその利用者の歩行介助時に膝折れによる転倒に備えることができます。
 しかし、送迎中の自動車事故のヒヤリハットの場合、ヒヤリハット発生地点を正確に把握して、危険に対処する運転をしなければなりません。ヒヤリハット発生地点は、ヒヤリハットシートの文書を読んでも、また住所で示されても正確に把握することはできませんし、具体的なリスクの発生状況も文字では把握しきれません。では、ヒヤリハット地点と具体的なリスク発生状況を、どのような方法で共有したら、自動車事故防止に活かせるのでしょうか?
■ヒヤリハット発生地点は危険箇所マップで共有する
東京都のある社会福祉法人では、全てのデイサービスでヒヤリハットをビジュアル化する取組をしています。具体的には、危険箇所マップを作成してヒヤリハット発生地点を地図上で把握し、ドライブレコーダーの画像でリスクの発生状態をビジュアルに把握する活動をしているのです。
初めに危険箇所マップによる、危険箇所の把握と共有方法をご紹介します。送迎エリアを1枚の大きな地図にしてデイルームの隅に貼り出します。送迎中にヒヤリハットが発生すると、ドライバーはヒヤリハットシートを記入し提出した後に、マップ上のヒヤリハット発生地点に付箋を貼ってどのようなリスクが発生したのかを書き込みます。図のように、保育園のお迎えのママさんの影から園児が飛び出して来たら、「保育園送迎飛び出し注意」と記入します。もちろん、翌朝の朝礼でヒヤリハットを報告しますから、他のドライバーは発生地点を地図ですぐに確認できます。
デイサービスを訪れた利用者の娘さんがこのマップを見て、「私も注意しなくちゃ」と言って、スマホで写メして帰ったそうですから、家族にも事故防止の姿勢が伝わって評判は上々だそうです。
■ドライブレコーダーの画像を閲覧
 次の事故発生状況の把握と共有方法です。ドライバーからヒヤリハットシートが提出されたら、所長はドライブレコーダーの画像をWEBで入手します。パソコンにヒヤリハット情報の画像をダウンロードしたら、始業点検前にドライバーを全員呼んでヒヤリハットの画像を見ながら注意を促します。ドライバーは臨場感溢れる画像で、自らがヒヤリハットを体験したと同じように感じるため細部にわたる安全配慮運転ができるようになります。図のような自転車の飛び出しの場面を見ていると、反射的にブレーキを踏もうとして思わず足が突っ張ってしまいます。
 このようにして、ヒヤリハット発生地点と発生状況をビジュアルに把握することによって、その危険箇所地点に差し掛かった時に、自然に徐行運転ができるようになります。この社会福祉法人では定期的に全てのデイサービスの送迎車ドライバーを一堂に集めて、ヒヤリハット事例についてグループで討議する検討会も行っています。

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