投稿者: anzen-kaigo 一覧

  • 03/11
    2025
    2025.03.11
    プレミアム会員向け「リスクマネジメント委員会サポートツール(2025版)」登場!

    サポートツールとは、リスクマネジメント委員会活動をバックアップするため、毎月の事故防止対策テーマごとに、動画、ニュース、マニュアルなどを委員会から現場職員に提供する仕組み。4月のテーマは「安全な介護のルール」、ツール見本からご覧ください。≫委員会サポートツール見本 ≫プレミアム会員のご案内(4月募集締め切り間近)

  • 03/03
    2025
    2025.03.03
    4月無料セミナー「15の事例から学ぶ認知症利用者の事故防止対策」のご案内

    お元気で認知症の重い方の事故は、介護事故の中で最も防ぎにくい事故です。リスク予測が困難で未然に防ぐより「損害を軽減する対策」が重視されるのは、知的障害者施設と同様です。最も防ぎにくい事故に挑戦しましょう。≫案内はこちらから

  • 03/01
    2025
    2025.03.01
    新刊「すぐ取り組める介護施設・事業所の虐待防止対策ブック」のご案内

    弊社代表山田滋著「介護施設・事業所の虐待防止対策ブック」が第一法規より発売されました。最近の虐待事故は、以前とは異なり複雑な要因が絡み合って起きています。多くの虐待事故調査から原因を分析し、防止対策を解説しましたのでご活用ください。≫書籍ご案内

  • 03/01
    2025
    2025.03.01
    3月安全な介護にゅーす「新人の職場内研修で事故寸前、大きなクレームに」

    新任職員の職場内研修(OJT)で起きる事故の原因は、指導者に安全対策が徹底されていないことです。「新人OJTにおける安全確保のポイント」を提供しますのでご確認ください。≫読者登録はこちらから

  • 02/28
    2025
    2025.02.28
    4月14日オンラインセミナー「設備・用具などの施設環境リスク対策」のご案内

    職員のミスが原因のように見える事故も、多くの施設環境リスクが関わっています。また、介護機器の製品欠陥による事故も見逃せません。安全に介助できる環境を整備することで驚くほど事故を減らすことができます。≫パンフレットはこちら

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    離床介助時の移乗介助で転倒事故、フットレストに足が当たって車椅子が動いた!

    《検討事例》                   ≫[関連資料・動画はこちらから] 
     特養に入所しているMさん(要介護4)は、軽度認知症の93歳の女性です。脳梗塞による右半身麻痺の障害があり、歩行は車椅子全介助です。また、高血圧症、糖尿病、心不全の持病があり薬もたくさん飲んでいます。
     ある朝、入社1年目の女性の介護職員が離床介助で、Mさんをベッドから車椅子に移乗しようとしました。Mさんは体重が30キロと痩せて小柄な方なので、非力な女性の介護職員でも比較的に楽に移乗できると介護職員は考えていました。ところが、Mさんをベッドで起こして端座位になってもらい、車椅子のブレーキをかけて所定の位置に停め、Mさんの上半身を前から抱え上げると、健側の足が踏み出せず前によろけてもたれかかりました。介護職員は咄嗟に体重が軽いMさんなので、そのまま車椅子に載せられると考えましたが、車椅子のフットレストにMさんの足が引っかかり、弾みで車椅子が後ろへ動いてしまい、支えられなくなった介護職員はMさんを転倒させてしまいました。
     Mさんは、左半身を床に打ち大腿骨の骨折と診断され、入院の上手術をすることになりました。介護職員は、事故報告書の事故原因欄に「体重が軽い利用者なので油断していた」と書きました。施設長は、「Mさんは、早朝はふらつきがあるから注意するようにと言われていたはずだ。いったい何を聞いていたんだ」と叱責し、主任に「もっと緊張感を持って業務に臨むように指導して欲しい」と指示をしました。

    《事例検討解説》
    ■介助ミスによる事故の原因は職員の不注意だけか?
    移乗介助中の転倒など、誰の目にも介護職員のミスが原因のように見える事故が起こると、事故原因は職員の不注意などと決めつけて、それ以上原因分析をしようとしません。確かに目に見える直接的な事故原因は、職員が利用者を支えきれなかったことかもしれません。しかし、「なぜMさんが急にふらついたのか」「なぜ介護職はMさんを支えられなかったのか?」など、職員のミスを誘発する要因が不明なままです。これらミスを誘発する要因を放置しておけば、違う職員が同じ場面で同じ事故を起こすことになるのです。では、この事故のケースで、「移乗介助中に利用者を転倒させた」という介助ミスを誘発する要因は何だったのでしょうか?
    ミスを誘発する要因を3つの方向から探ってみましょう。1つ目は利用者側の要因、つまり「なぜ移乗中にMさんが急にふらついたか?」という要因です。Mさんは、血糖降下剤や血圧降下剤など転倒につながる薬を服用していますから、服薬の影響がふらつきの要因として考えられます。2つ目は介護職側の要因、つまり「なぜ介護職はふらついた利用者を支えられなかったのか?」という要因です。体重の軽いMさんですから、上半身を抱えて抱き上げるという無理な移乗介助方法でも支えられると考えたのでしょう。介助動作が不適切であったことが要因です。3つの目は環境要因、つまり「移乗介助を行う環境が安全だったのか?」という要因です。「フットレストに足が引っかかり車椅子が後ろに動いた」ということは、車椅子にミスを誘発する要因があるのかもしれません。
    このように、事故を誘発する背景要因を探る時には、3つの視点で検討するとたくさんの要因が見つけられます。この要因分析の手法は、製造業などで使われるSHELLモデル(※)と言われるヒューマンエラーの分析手法は簡素化して介護に当てはめたもので、介護現場では分かりやすいので良く使っています。
    介護現場で事故の原因分析と再発防止策の検討がなかなかうまくいかないのは、事故が職員のミスによって起こるように見えるため、事故原因は職員のミスとの固定観念で捉えていて、多角的な要因分析を怠っているからなのです。
    ※SHELLモデル:ヒューマンエラーの要因を分析する手法。次の5つの要因に分けて分析する。S→software:業務手順や作業手順、H→hardware:用具や道具、E→environment:設備など業務環境、L→liveware:業務を行う本人、L→liveware:業務を行う本人以外の人
    ■なぜMさんは早朝だけふらつきがあるのか?
    さて、早朝の離床介助時にふらついて転倒する利用者がたくさんいます。施設長が言うように「早朝ふらつくから注意するように」ではなく、なぜ早朝ふらつくのかその原因を分析してふらつかないように対策を講じなくてはなりません。Mさんのケースを詳しく考えてみましょう。
    前述のようにMさんは多剤服用である上に、転倒の要因となる服薬が多いので、早朝にふらつくことが考えられます。まず、糖尿病で血糖降下剤を服用していますから、早朝に低血糖発作を起こしているかもしれません。高齢の糖尿病患者の3割が夜間不顕性低血糖発作で、異常な低血糖状態にあると言われています。当然早朝のふらつきの原因になります。次に血圧降下剤と利尿剤(心疾患による浮腫の薬)を併用していますから、利尿作用で血圧降下作用が増強され低血圧状態になります。また利尿作用による脱水も早朝は現れやすいでしょう。そして、睡眠導入剤のエチゾラムは半減期が6.3時間と比較的長時間作用しますから、早朝には作用が持続している可能性があります。
    そして、最も注意を要するのはMさんの年齢と体格に対して処方量が多過ぎることです。どの処方薬も成人の処方量ですが、Mさんは93歳で体重が30㎏と超高齢で小柄な体格です。超高齢で代謝機能が衰えている上、標準的な成人の半分の体重しかありません。体重80キロの50歳代の患者と同じ処方量では、過量処方になり作用が過剰になっていると考えられます。売薬でさえ「14歳未満半量」などの年齢差や体格差により処方量が異なるのに、なぜ「80歳以上半量」という用量指定が無いのでしょうか?
    ■安全な介護環境で介助ができているか?
     もう一つ、職員の介助ミスを誘発する最大の要因があります。介護環境の要因です。労働安全の分野では、安全教育指導以上に重要視される労災事故の要因が労働環境であり、その改善の責任は専ら現場管理者とされていますが、介護現場では労災事故が少ないため誰も気に留めません。
    本事例の介護環境を検証してみましょう。「車椅子のフットレストにMさんの足が引っかかり、弾みで車椅子が後ろへ動いた」とありますから、この車椅子はフットレストが開かない構造の古いタイプの車椅子なのでしょう。当然、アームレストも上がりませんから、無理して利用者の上半身を抱え上げなくてはなりません。安全機能が劣る古い車椅子は移乗介助の負担が大きくなりますから、事故を誘発する大きな要因になります。
    また、フットレストに利用者の足が引っかかった時、ブレーキがかかっているのに後ろに動いたと言うことは、ブレーキが効いていなかった(緩んでいたのではない)可能性が高いと言えます。車椅子のブレーキはタイヤの表面を押さえて止める構造ですから、ブレーキが緩んでいなくてもブレーキは効きません。実際に特養などの車椅子を点検して驚くのは、タイヤの空気が少ない、タイヤの表面が摩耗してツルツル、というような車椅子を多く見かけることです。こんな手入れもされていない車椅子で安全な移乗介助などできません。介助しづらい環境で無理をして介助をしていれば、事故の危険が大きくなることは自明の理なのです。
    古い施設の管理者に車椅子の状態を指摘したところ、「まあ古い施設だから仕方ありません」と全く改善する気がありませんでした。「こんな古い機能が劣る車椅子では安全なトランスなどできないでしょう」と言うと、「古い車椅子でも安全に移乗させるのがプロの技量ですよ」と訳の分からない返事が返ってきました。労働安全と同様に、安全な介護環境を保障するのは、管理者の仕事だと自覚してもらいたいと思います。

     

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    デイの送迎時、居宅の門から玄関まで職員2人で支えて移動介助中に転倒骨折

    《検討事例》
     デイサービスの利用者のBさんは立位が困難で車椅子全介助の利用者です。しかし、Bさんの居宅は玄関から門扉まで15mも距離がある上、通路に砂利と飛び石が敷いてあり、車椅子での移動介助ができません。単独で立位は困難ですが、職員が両側で支えれば立位が取れるため、毎回この場所だけは職員二人がBさんを両側から支えてゆっくり歩行しています。ある日、Bさんが突然膝折れして転倒して骨折してしまいました。家族は職員の介助ミスだと主張しています。

    《事例検討解説》
    ■職員の介助ミスが原因だが介助環境の危険も大きい
    もちろん、本事例の事故の直接的な原因は両側から職員二人で介助していながら、利用者を転倒させてしまったことです。ですから、この事故は職員の介助ミスが原因として過失と判断され、デイサービスが損害賠償責任を負わなくてはなりません。しかし、Bさんの居宅の移動介助の環境は安全な環境だったのでしょうか?立位が取れない身体機能の利用者を、砂利道で立たせて介助して歩行させることは、誰の目から見ても危険なことは明白です。
    ですから、本来はこの砂利道を舗装することで車椅子介助ができるようにすべきだったのです。ただし、デイサービスはこのような危険な環境であっても、一旦送迎業務を引き受けてしまえば安全に介助する義務が生じますから、後になって居宅の移動環境の危険が事故原因だと主張することはできません。
    実は本事例だけでなく、送迎車と居宅の玄関の間の移動環境が著しく悪いために、無理な移動介助を行なっている例がたくさんあります。「エレベーターが無いために団地の3階まで、利用者を背負って階段を上っている」「玄関の手前に大きな段差があり車椅子から降ろして抱え上げている」「居宅前に送迎車が停車できないため、狭い悪路の路地を車椅子移動する」など、送迎員は様々な悪条件の中で苦労を強いられています。そしてこのような居宅の送迎環境の悪条件のために起きている事故が少なくありません。
    ■居宅の移動環境の危険を是正するのは誰の役割か?
    では、もともとその利用者の居宅が危険な環境で、送迎時の移動介助に事故の危険があれば、どのタイミングで誰がこれらを是正すれば良いのでしょうか?そこで問題となるのがサービス提供開始時のリスクアセスメント(リスク評価)が不十分であることです。ケアマネジャーからデイサービス利用のオファーがあった時、相談員はその利用者のサービス利用上のリスクを評価して、デイサービスを安全に利用できる条件が整っているか判断しなければなりません。例えば、利用者の疾患によってデイサービスを安全に利用できないと判断すれば、相談員はデイサービスの利用を断るはずです。では、相談員は居宅の移動介助の環境が安全な状態であるかどうか、なぜチェックをしないのでしょうか?実は、送迎時の移動介助中の事故の本当の原因は、サービス提供開始時に安全な移動介助の環境であるかどうかをチェックしていないことにあるのです。
    ■ケアマネジャーの役割が大きい
    ケアマネジャーからデイサービス利用のオファーがあった時、デイサービス側の安全なサービス利用のチェック項目に、居宅の移動環境が無いことに問題があると指摘しました。では、デイサービスの相談員が居宅の玄関と門扉の間の移動環境の危険に気付いたら、どのようにこれらの危険を改善すれば良いのでしょうか?次の手順で取り組んでみてはいかがでしょうか?
    ①玄関の中や外の段差、敷地内の通路など居宅側の移動環境の危険を評価する
    まず、ケアマネジャーからサービス提供のオファーがあった時点で、居宅での送迎業務の環境を点検し、著しく危険な箇所があれば改善を求めます。介助員一人での移動が難しければ、ケアマネジャーに依頼して、送迎介助のヘルパーの導入を求めることも考えなければなりません。
    ②居宅敷地内の移動環境が悪ければ住宅改修の制度も利用する
    ケアマネジャーは、居宅敷地内の移動環境が著しく悪く、安全なサービス提供の大きな障害になると判断すれば、家族に対して住宅改修の制度などを説明し改善の協力を求めます。よく「独居の利用者なのでそこまで要求はできない」などと、簡単に諦めてしまうケアマネジャーも居ますが、家族が近所に住んでいる場合などは、「ご自宅の通路は極めて危険で介助歩行も車椅子移動も無理な環境です。事故の危険が高いので改善に協力して下さい」と、家族に交渉しなければなりません。
    ③改善が不可能であればサービス提供を断ることもあり得る
    デイサービス事業者は、ケアマネジャーからデイ利用のオファーがあると、サービス提供を行なうことを前提にそのままの環境を容認してしまいます。もし、ケアマネジャーと家族に環境改善を依頼した上で、どうしても改善が不可能で著しく危険であれば「安全なサービス提供はできない」という理由で、サービス提供を断ることもあり得るのです。 
    ■移動環境の改善は知恵を使えば様々な方法がある
    次に、デイサービスの送迎時の移動環境が著しく悪く、知恵を使って改善できた事例をご紹介しましょう。
    あるデイサービスでは、築42年の木造アパートの2階に住んでいる独居の男性利用者Hさんを、背負って階段を上り居室まで送迎しており、不安に感じていました。築42年の木造アパートですから、木製の階段もギシギシと音がして手すりがぐらつくなど、介助員はいつも不安を感じていたのです。ある日、利用者を背負って階段を上っている時、介助員がふらついて手すりに捉まると、手すりが根元で折れてしまいました。幸い転落は免れたものの危ういところでした。介助員が大家さんに謝りに行くと大家さんが言いました。「もう古い家だから手すりも折れるよ。1階の居室が空いているから、移ってもらったら楽になるんじゃないですか?」と。早速ケアマネジャーと相談し、Hさんは1階の部屋に移り無理な送迎はなくなりました。大家さんのご厚意というのもHさんのサービス提供を支える大きな社会資源だったのです。
     また、あるケアマネジャーさんは、市営住宅の5階に住んでいる独居の男性利用者(車椅子使用)のデイサービス利用の話が出た時に、すぐにデイサービス利用をプランニングしませんでした。「エレベーターが無いこの市営住宅では5階までの上り下りが大変なので、高優賃の1階を申し込んで引っ越しができたらデイサービスを利用しましょう」と言って、高優賃の1階を申し込んだのです。半年後に引っ越しができたので、楽にデイサービスを利用することができました。デイサービスの送迎環境の危険は、利用者の生命にかかわる事故にもつながります。もっとケアマネジャーが関わって改

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    新入職員のOJTで転倒事故、被害者が寝たきりになったことを苦に職員が退職

    《検討事例》
    3月に専門学校を卒業して入社したKさんは、デイサービスに配属になりました。所長は先輩職員に「みなさん温かく指導して下さい」と紹介し、利用者へも「こちらに配属になった新人さんなのでお手柔らかに」と言ってくれました。2週間経ったある日、先輩職員が「Mさんがトイレに行きたいと言ってる、おまえ介助してみろ」と言われ、パーキンソン病のMさんのトイレ介助をしました。ところが、Mさんの移乗介助中に突然腕がビクッと動きKさんの顔に当たり、はずみでMさんを転倒させてしまいました。Mさんは頭部を強打し硬膜下血腫となり、予後が悪く寝たきりになってしまいました。所長は「Kさんが責任を感じることはないのよ」とフォローしましたが、Kさんは1か月後に退職してしまいました。

    《事例検討解説》
    ■新人に身体介護をさせるには
    この事故の原因はKさんの介助ミスではありませんし、事故の責任はKさんにはありません。無責任な先輩職員がいきなり新人のKさんに対して、いきなり「Mさんトイレを介助してみろ」と“むちゃぶり”したことが最も大きな原因です。また、新人OJTの体制や手順を整備しないで、現場任せにした管理者の責任です。
    技術も知識も備わっていない新人職員にいきなり利用者の身体介助をさせたら危険なことくらい誰でもわかります。ベテランでも新しい職場に来て知らない利用者を介助するには、事前に利用者の身体機能などの知識が備わっていなければ安全に介助はできません。Mさんはパーキンソン病で不随意運動がある利用者のようですから、介助中で予期せぬアクシデントが起こる介助難しい利用者ですからなおさらです。
    身体介護はミスが直接利用者の生命の危険に直結する危険な業務ですから、他の介護業務とは異なる高い安全配慮義務が課されています。例えば、本事例のように不可抗力的なアクシデントが原因で事故が起きて裁判になったら裁判官は不可抗力性を斟酌してくれるでしょうか?おそらく裁判官は「身体介護においては利用者は動作の全てを介護職に委ねている状態であるのだから、どんな不測の事態が起きても利用者の身体に危害を及ばないよう高度な安全配慮義務がある」と言って、過失と評価するでしょう。つまり、身体介護における事故では不可抗力性という言い訳はほとんど通用しないのです。
    ■新人にはリスクの低い利用者を介助させる
    前述のように身体介護は高度な安全配慮義務が課されている業務ですが、いつまでも危険だからと新人に任せない訳にはいきません。まず、リスクの低い利用者から慣れてもらわなければなりません。では、身体介護のリスクの高い利用者と低い利用者をどのように評価して区分したら良いのでしょうか?
    私たちは新人に任せる時だけではなく、日常から身体介護における安全配慮義務の程度を次のように3つに分けて、その義務に高さに見合った対策を講じています。
    1.全介助利用者への身体介護
     利用者は動作能力が全くありませんから、介助中は利用者の動作を全て介護職が支配している状態になりますから、どんな不測の事態が起きても対処できるように万全の対策が求められます。身体介護で安全配慮義務が最も大きい介助行為です。
    2.半介助利用者への身体介護
     利用者の自立動作を介護職が援助して動作を完結させる共同作業になりますから、利用者の自立を妨げない範囲で事故防止の対応が必要になります。身体介護では2番目に安全配慮義務が大きい介助行為です。
    3.見守りなどの間接的な身体介護
     利用者の動作は自立しているが動作に危険があるような場合、近くで見守り不測の事態がおきた時に対処して介助するケースです。対処しきれない場合もあり全ての事故を防げる訳ではないので、安全配慮義務は比較的低いと考えられます。
    介護現場ではこのようなリスクに対する安全配慮義務の程度について、区分して認識されていないことが大きな問題なのです。
    ■OJTの体制を整備する
    さて、本事例は新人のOJTの方法が法人で統一されておらず、現場任せになっていることが根底にある最大の原因と言えます。では、介護現場で安全な新人OJTを行うためには、どのような点に注意したら良いのでしょうか?
    まず、安全にOJTを行うためには、お客様に迷惑がかからないようにきめ細かい指導と配慮を行う、指導役が身近にいなければなりません。特定の先輩社員が新入職員の指導役となって、OJTで新入職員を指導する仕組み必要なのです。医師も顧客に危害が及ぶ危険な仕事ですから、指導医というマンツーマンで指導を行う先輩がいます。この仕組みは「ブラザー・シスター制度」などと呼ばれ、多くの会社で導入されています。
     具体的には、先輩職員が新人職員にお客様個別の対応方法を教えて、実際に目の前で業務をさせて至らないところを指導します。また、何度も繰り返して実践させて指導し、PDCAを繰り返すことで、自ら学ぶ力や課題解決能力も身に付けさせます。新人職員は座学や実技の研修では学べない、活きた現場でのお客様対応の配慮や工夫を学ぶ貴重な機会となります。ですから、新人の指導に当たる先輩職員も、お客様への対応能力に優れた新人の教育にも適した能力の高い人材が必要になります。
    ■安全に新人OJTを行うためには
    最後に現場の新人OJTにおける事故防止対策のポイントを挙げてみますので参考にして下さい。
    【新人OJTにおける事故防止のポイント】
    〇新人が身体介護を担当する(介助しても良い)利用者を決める
    職場の利用者の中で、比較的介助にリスクが少ない利用者を新人の担当とします。ただし、次の利用者は原則除きます。認知症の重い利用者、パーキンソン病で不随意運動がある利用者、極端に体重の重い利用者、下肢筋力低下や拘縮などがあり身体介護が難しい利用者。
    〇担当する利用者の身体機能や介助方法などを教える
    担当する利用者の既往症、障害の状況などの情報を一覧にして覚えてもらいます。また、介助方法を先輩職員が実演して見せて注意点を説明します。
    〇利用者個別の介助方法を実地指導し身に付けさせる。
    先輩職員が利用者役を演じて、実際に新人職員に介助させてみて、介助方法の至らないところをアドバイスします。また、「〇〇さん、姿勢を直しますから少しお手伝いさせて下さい」など、個別利用者への声かけの方法も指導します。
    〇介助する時は必ず先輩に見守りをお願いして独りでやらない。
    実際に利用者に介助行為を行う時には独りでせずに、必ず先輩職員を呼んで見てもらいながら介助することを徹底します。
    〇介助方法と介助上の注意点をメモに記入させ、介助前には必ず確認する
    先輩から教わった介助方法と介助上の注意点をメモしてこれを絶えず持ち歩き、介助行為を行う前に必ず確認するように指導します。
    〇不測の事態が起きた時の対応教える
    トランスの途中でバランスを崩した場合など、事故が起こりそうになった時に危機を回避する手段を教えて、実際に訓練をします。

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    認知症利用者の鼻をつまんで食べ物を口に入れ誤嚥事故が起きた

    《検討事例》
     虐待とも考えられるような介助方法で誤えん事故が起きました。ある介護職員Aが食事介時に、認知症の利用者がなかなか口を開かないため、鼻をつまんで口を開かせ食べ物を口に入れたのです。気管に食べ物が侵入し誤嚥事故となりましたが、幸い命は取り留めました。もちろん、食事介助の方法として、無理矢理口を開かせて食べさせて良い訳がありませんし、これは明らかに虐待行為です。しかし、この事故を起こしたAは「危険な介助方法だとは思わなかった」「主任が“鼻をつまめば口を開くよ”言ったから」と申し開きをしました。話を分かり易くするために“もしこの事故が死亡時になったらどうなるのか”という仮定で、問題点を考えてみましょう。

    《事例検討解説》
    ■故意と過失では罰則が異なる
    この誤えん事故で利用者が死亡すると、刑法の犯罪として刑事告訴される可能性があります。通常ルール違反や危険が明白であるような行為を行って事故を起こし、相手が死傷するような重大事故につながると業務上過失致死(傷)罪に問われることがあります。ただし、この介助行為がルール違反もしくは非常に危険だということを認識していたかどうかで事情は変わってきます。つまり、ルール違反であることや非常に危険であるということの認識がありながら、故意にその行為を行うと更に罪は重くなり、重過失致死(傷)罪になるかもしれません。
    さて、介護職員Aは「危険の認識は無かった」と主張しています。しかも、上司の指示に従ったのだから、自分は利用者を危険に晒すつもりは無かったのだと言っているのです。この主張は認められるでしょうか?この場合介護職員Aのこの行為が、誰の目にも明らかに危険であると考えられれば、彼の主張は認められません。
    鼻を塞がれた状態で口に食べ物を入れるとどうなるでしょう?鼻で呼吸ができず口で呼吸をしますから、口に入った食べ物が気管に侵入する危険は極めて高く、誤えん事故に至る必然性があります。ですから、介護職員としてはこの危険を認識して当然であり、「認識していなかった」という抗弁は通用しないかもしれません。もちろん、Aの食事介助の行為が介護マニュアルで「危険なのだからやってはいけない」と具体的に明記されていればルールですから、Aの主張は議論の余地はありません。
    ■「上司の指示に従った」という抗弁
     次に、「上司が“鼻を摘まめば口を開くよ”言った」と主張はどうでしょうか?彼の罪を軽くする抗弁になるのでしょうか?この主張は認められるかもしれません。もちろん、介護職員Aがベテランであれば、自分で危険を判断して行動しなければなりませんが、経験の浅い介護職員であれば上司の指示に従ってしまうかもしれません。
     もし、Aの介護職員としても経験が浅く、上司の発言によってこの行為を行っても危険は無いと判断したのであれば、Aの罪は軽くなる可能性があります。しかし、同時に上司である介護主任が同じ業務上過失致死(傷)罪に問われるかもしれません。業務上の事故では介護事故の起こした職員本人の刑事責任と同時に、管理監督責任がある上司や管理者が同様に罪に問われることは珍しくないのです。
    ■管理者が罪に問われる可能性も
    以上のように、利用者にとって危険が明白な介助方法によって事故が発生して重大事故になれば、本人の認識如何を問わず刑事事件につながる可能性が高くなります。Aの食事介助の行為は、介護に従事する職員から見れば「誰から見ても危険」という行為で議論の余地はないでしょう。しかし、介護職場では安全な介助のルールが文書になっている訳ではなく、その判断は現場に任されているのが現状です。
    誰から見ても危険という介助方法が職場で常態化しているにもかかわらず、管理者がこれを是正する措置をとらずに今回のような事故が起きれば、管理者が刑事責任を問われ可能性があります。管理者は職場の安全管理に対して、包括的な重い義務を負っているからです。管理者が「危険な介助方法の実態」を全て把握できる訳ではありませんから、施設内で職場リーダーを中心に「不安全行動(※)」を点検してみてはどうでしょうか?
    ※不安全行動:労災事故では事故につながる危険のある従業員の行動をこう呼んでいる

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    クレーマーとの面談で相手に無断で録音したら「盗聴は犯罪だ」と言われた

    《検討事例》
    介護付きホームの入居者Hさんの息子さんは、入所時に「母を転ばせないで」と強く要求しました。相談員は「最善を尽くします」と答えましたが、転倒事故が起こると「転ばせないと約束したのになぜ転ばせた」と大きな声を出します。その後も身勝手な要求を繰り返し、こちらが言ってないことを「言った」と威圧的な態度でゴリ押しします。ある時息子さんが「〇〇と言ったはずだ」と言ってきたので、詳細な会話の記録を見せると、記録など当てにならないと言います。相談員は「録音して記録したのだから間違いない」と言ってしまいました。息子さんは「勝手に会話を録音するのは違法だ」と言います。交渉相手との会話を録音したら違法なのでしょうか?

    《事例検討解説》
    ■無断録音は盗聴ではない
    Hさんの息子さんのように、こちらが言っていないことを「言った」と強引に主張して、暴力的・威圧的な態度で理不尽な要求をしてくる相手に対しては、防衛手段として会話を録音する必要があります。相手の同意を得て録音すれば何の問題もありませんが、Hさんの息子さんが会話の録音に同意するとは思えません。では、相手の同意なしに会話を録音したら違法なのでしょうか?
    私たちは、無断で会話を録音する行為は、後ろめたく違法性があるように感じます。隠しマイクで人の会話を録音することを「盗聴」と言いますから、盗撮のように犯罪と思えるのです。他人の容姿を無断で撮影すればプライバシーの侵害ですから、無断録音も同様に権利の侵害とも受け取れます。
    しかし、相手の同意なく会話を録音することは、違法ではありませんし犯罪でもありませんから、正確な記録のために録音することは構いません。他人同士の会話を隠れて録音する行為、すなわち「盗聴」はそれだけでは犯罪にはなりません。盗聴器を仕掛けるために住居に不法に侵入したり、電話回線に盗聴器を仕掛けて会話を受信するような行為が犯罪になるのです。
    また、他人同士の会話を無断で録音すればプライバシーの侵害になりますが、相対して話をしている相手と自分の会話を無断で録音する行為(無断録音)は、権利侵害の程度が低く問題にならないと考えられます。
    ■威圧的な相手との会話は録音すべき
     Hさんの息子さんは威圧的な態度で無理な要求をしてくる人です。その上、こちらの言っていないことを「〇〇と言った」と、自分の都合の良い主張に変える人です。このような相手と交渉する場合には、後日のトラブルに備えて準備が必要です。
     まず、相手のとの交渉には必ず2名で臨み、1名が相手との交渉を担当し、もう1名が記録を取ります。単独で交渉に臨むと、後日「言った言わない」という争いになった時、こちらの主張の正当性が弱くなってしまうからです。そしてこちらの主張を裏付ける記録を正確に取るために、相手の同意が無くても会話を録音します。交渉の場で相手がこちらを脅かすような暴言を吐けば、脅迫罪になるかもしれませんから、後日この録音を証拠に相手を刑事告訴できるかもしれません。また、暴力的で威圧的な相手に対しては、録音を条件に交渉に臨むと相手に伝えることで、暴力的な行為をけん制することもできます。
     このように、会話の録音自体は違法ではありませんし犯罪でもありませんが、録音したことが相手に分かれば相手との信頼関係を損ねます。また、こちらが相手に敵対意識を持っていると受け取られますから、信頼関係を重視している相手に対しては録音したことが分からないようにしなければなりません。
    ■録音の取扱いには注意が必要
    さて、無断録音は違法性がありませんから会話の録音は構いませんが、録音したデータの取扱いには注意が必要です。録音されたプライバシー性の高い内容が職員から口外されれば、プライバシーの侵害で賠償請求される可能性もありますから、厳重に管理して他の職員がアクセスできないようにしなくてはなりません。
    消費者保護の観点での配慮も必要です。2人の職員が1人の相手と交渉し無断で録音までしているのですから、消費者保護の観点から好ましい光景とは思えません。相手が威圧的でやむを得ない場合のみ録音するとした方が無難でしょう。介護福祉事業は公共性が高く利用者保護への配慮が必要とされていますから。

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