投稿者: anzen-kaigo 一覧

  • 03/28
    2024
    2024.03.28
    転倒骨折、入院先で死亡。キーパーソンは納得、次男が訴訟提起

    【検討事例】利用者が亡くなると兄弟が黙っていない
    特養に入所していたKさんは、ある日職員のミスで転倒し骨折してしまいました。キーパーソンの長男は「施設にお世話になっている」と、何も要求しませんでした。ところが、1週間後に入院先の病院でKさんが亡くなると、様相が一変しました。葬儀のため帰省した東京在住の次男が「施設の過失による事故で死亡した」と主張して、施設に賠償を求めて来たのです。「施設には大変お世話になったのだから」と長男が諌めても、納得しない次男は長男に相談なく賠償訴訟を起こしました。今回は、事故発生時のキーパーソン対応について考えます。

    ■キーパーソンへの依存は禁物
    この事故で施設側は、キーパーソンの長男が次男を説得してくれるだろうと安心していました。ところが、利用者が事故をきっかけに亡くなると、葬儀に集まった子から異論が出ました。次男は長男に「お兄さんは施設に世話になっているという負い目があるから」と、施設に対する弱腰な姿勢を責めます。他の子も次男と同じ意見です。次男は「私がお兄さんの代わりに施設と交渉する」と言って、施設に乗り込みます。
    ここでも、長男は「施設には大変お世話になっているから」と次男を諌めようとしました。「長男に任せておいても、施設に賠償請求はできない」と考えた次男は、東京に戻ってから弁護士を雇い訴訟を起こしたのです。相続権がある子であれば誰でも損害賠償訴訟を起こせますから、「長男が施設の味方をしてくれていたのに」と悔やんでも後の祭りです。
    この事件のように、利用者の存命中は利用者に関する全ての決定権がキーパーソンの長男に一任されていて、他の子は異議を唱えません。しかし、いざ利用者が亡くなると相続財産も絡んで様々な諍いが起こり、施設での事故にまで責任追及が及びます。キーパーソンという家族は利用者の在宅介護を経験している家族が多く、比較的施設運営に関して理解があり、施設ともコンセンサスの取りやすい存在です。しかし、他の子の中では「権利の主張もできないお人好し」という評価になってしまうのです。

    ■配偶者のキーパーソンは子に弱い
    次は、配偶者がキーパーソンという事例を挙げましょう。重い認知症の妻を献身的に介護してきた、キーパーソンの夫の事例の事例です。利用者がトイレ介助中に暴れて転倒し骨折してしまいましたが、日頃から手のかかる妻の介護に恐縮している夫は治療費の請求をしませんでした。ところが、事故の知らせを聞いて実家に帰って来た次女が、父の態度に異議を唱えたのです。「施設の過失で転倒骨折したのだから、施設が治療費を支払うのは当たり前」と、父に代わって施設に賠償請求をしてきたのです。
    利用者の妻は83歳でキーパーソンの夫は81歳です。これくらいの高齢になると家族の中の主導権は子が握っていて、父と言えどもいざと言う時には子の意見には従わざるを得ません。次女は執拗に慰謝料の金額にこだわり、二言目には「訴訟」を口にする権利主張の強い人でしたから、解決までには施設も大変苦労しました。この施設ではこのトラブル以降、利用者のキーパーソンが配偶者の場合は、必ずセカンドキーパーソンとして、子を指定してもらい人間関係を作るよう努めています。「お父様がご病気などの時に、施設から必要なご連絡をさせていただくお父様の代わりのご家族を決めて下さい」とお願いしているのです。キーパーソンが利用者の配偶者では、ご高齢ですから何があっても不思議ではありません。

    ■キーパーソンの代替わり
    18年前に特養に入所された利用者Hさん(女性)は当時78歳でキーパーソンの息子さんは56歳でした。18年経った今、ご本人は96歳でキーパーソンの息子さんも74歳になってしまいました。息子さんは会社を退職して毎日のように施設にやってきますから、施設としては息子さんと信頼関係も十分にできていて、大きな問題は起こりませんでした。
    ところが、ある時Hさんが居室で転倒して大たい骨を骨折してしまいました。相談員は、息子さんに対して「夜中にベッドから降りようとして転倒したので、防ぎようがなかった」と不可抗力であることを説明しました。しかし、突然お孫さんが来所され「介護記録と事故報告書を見せて欲しい」と言って来ました。相談員が驚いてキーパーソンの息子さんに電話をすると「今回の事故の件は息子(孫)が対応する」と言われてしまいました。
    お孫さんは53歳と働き盛りで世帯の生計維持者ですから、施設入所の祖母が入院すれば費用を負担しなければなりません。施設が気付かない間に世代交代が起こり、利用者の息子さんは既に家族の中心的存在ではなかったのです。利用者が高齢化しキーパーソンの家族も同様に高齢化してきていますから、事故が起きた時はキーパーソンだけでなく家族の決定権者が誰かを見極めて対応しなければなりません。

  • 03/28
    2024
    2024.03.28
    薬袋の氏名を読み間違えて同じ利用者を2度誤薬、職員個人の問題?

    【検討事例】ある障害者施設の誤薬事故
    R障害者支援施設は、入所定員60名の知的障害者施設です。4か月前からお薬カードを使って服薬時には利用者の顔写真で本人確認を行うようになりました。ところが、同じ利用者の薬を2回誤薬するという事故が起こりました。誤薬事故の原因は、利用者の薬袋をお薬ボックスから取り出す時に、利用者の氏名を読み間違えたことでした。マニュアル通りに「職員2名で日付と利用者名を声に出して確認」していながら、2人とも間違いに気づかなかったのです。法人のリスクマネジメント委員会で再発防止策を議論しましたが、「確認ツールをここまで揃えているのに間違えるのではお手上げ。職員の個人的な責任だ。こんなボーっとしていては困る」と、否定的な意見ばかりです。
    ■薬の確認に集中できない現場の環境
    ヒューマンエラーの防止対策は注意力や集中力などの個人の能力に委ねてはいけません。R施設では、利用者の取り違えによる誤薬事故が多かったことから、利用者の顔写真を使って本人確認を行う手順に変えたため利用者の取り違えは無くなりました。ところが、薬の取り違えが立て続けに起きて問題になったのです。では、薬の取り違えの原因は何なのでしょうか?
    誤薬防災マニュアルでは、お薬ボックスから薬をピックアップした後に、他の職員に声をかけて二人で利用者名を読み上げてダブルチェックすることになっていますが、このチェック方法は機能しているのでしょうか?実際の食事介助の場面を見せてもらいました。
    食事介助の場面を見て少し驚いたのですが、ひどく騒々しくドタバタしているのです。食事が終わった順に与薬を始めるのですが、食事が終わった利用者は誰一人としてジッとしていません。食堂を歩き回る利用者や部屋に戻っていこうとする利用者を呼び止めて、席に座らせて慌ただしく服薬介助をします。部屋まで追いかけて行って服薬させている職員までいます。高齢者施設では考えられない、凄まじい光景です。
    こんなドタバタした環境で、手に取った薬袋の氏名を読み上げても、注意深く確認することはできそうにもありません。服薬確認のために呼び止められた職員は、迷惑そうで明らかに嫌々対応しているのが分かります。
    実はダブルチェックというチェック方法は厳密に言うと、2種類あるのです。一つ目は本事例のように、チェックの回数は1回で二人の人がチェックするという「二人チェック」という方法で、もう一つは場面を変えて2回チェックするという「二場面チェック」という方法です。前者はお互いが相手にチェックを依存してしまうという欠点がありますから、後者の二場面チェックの方が有効と言われています。

    ■ボーっとしていても間違いに気付く方法
    さて、このような集中力が全く働かなくなるような最悪の環境ですから、職員の集中力に頼るのは無謀ということになります。そこで、少し視点を変えて「集中しなくても間違いに気付くようにできないか?」という工夫をすることにしました。
    まず、お薬ボックスが置いてある場所が暗いことに気付きました。お薬ボックスを明るい場所に移しただけで、薬袋の氏名の印字ははるかに読みやすくなりました。次にお薬ボックスに付いているタグの文字が手書きでしかも悪筆で読みにくいので、テプラで印字してきれいに貼りなおしました。さて、その後調剤薬局が一包化してくれた薬袋を見ると、なぜか氏名の印字だけが大変小さいことに気付きました。
    氏名の印字が小さいのに、昼食後などの服薬のタイミングの表示だけやたら大きな字なのです。こんな小さい字を薄暗い場所で読んだら、誰だって読み間違いが起こります。もっと大きな字にはできないのでしょうか?ダメ元で調剤薬局に問い合わせてみました。
    すると、調剤薬局の薬剤師さんが「そう言えば氏名の字が小さいですね。大きくしてみますが、何ポイントくらいがいいですか?」と気軽に文字サイズの変更に応じてくれたのです。色々聞いてみると、氏名の印字が小さい理由も教えてくれました。もともと、一包化のサービスは居宅で自分の薬の管理ができなくなってしまう高齢者のために考案されたもので、一包化された印字を確認しながらお薬カレンダーにセットしていくというものなのです。居宅であれば本人しかいませんから、氏名の印字を大きく表示する必要がなかったのです。
    欲が出てきた私たちは調子に乗って、薬剤師さんに「朝、昼、晩、眠前と色を変えてもらえませんか?」とお願いしたら、気持ちよく応じてくれました。

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