投稿者: anzen-kaigo 一覧

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    デイの利用者・家族から職員への深刻なカスタマーハラスメント、所長の対応悪く退社

    《検討事例》
    Dさん(69歳女性・要介護4)は、多発性脳梗塞による重度の半身麻痺の利用者で、週に4回デイサービスを利用しています。家では娘さんが介護をしていますが、専門学校の教師をしていて多忙のようです。Dさんは3回の脳梗塞発作によって身体機能がかなり低下してきていますが、認知症は無く頭脳は明晰で意思表示もしっかりしています。利用を始めた当初から、介護スタッフの身体介護の方法に不満があるようで、介護するたびに「アンタのやり方はダメよ!ヘタ!それでもプロなの?」と、大きな声で文句を言います。
    その上、居宅に戻ってから娘さんに「介護がヘタなひどい職員ばかりだ」と不平を言い、そのたびに娘さんがデイサービスにクレームを言ってきます。一度スタッフがトイレ介助で転倒させそうになった時には、娘さんがデイサービスに乗り込んできて「職員のMを呼んで!」と言って職員を呼びだし「アンタは学校で何を習ったの?デイなんか今すぐ止めて勉強し直してきなさい!」と、1時間も執拗に説教をしました。止めようとする所長に対して「あなたが指導できないから私がしてあげてるの、黙ってなさい!」と一蹴してしまいました。その後も3回に亘って娘さんから執拗な攻撃を受けた職員のMは、ついにデイを辞めてしまいました。
    《事例検討解説》
    ■カスタマーハラスメントが再び激化
    家族や利用者から職員に対するカスタマーハラスメントは、感染対策の影響で一時的に鎮静化していましたが、5月から対策が緩和したことで再び激化してきました。ところが、現場では相変わらず理不尽な要求を暴力的・威圧的な手段で押し通すハラスメント行為者に対する対抗措置が全くできていません。メンタルを患って失職する職員が出ているのに、なぜ介護事業経営者は手を拱いているのでしょうか?それは、カスタマーハラスメント対策が介護事業経営者に任されてしまっているからです。
    ハラスメントによる労働者の被害が社会問題になってから長い時間が経ち、ハラスメントの種類は数えきれないほどに増えて、経営者の意識も大きく変わりました。セクハラ防止法(改正男女雇用機会均等法)やパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行によって、事業者はその防止措置を法律で義務付けられましたから、経営者も厚労省のマニュアル通りに対策を進めることができました。
     ところが、カスタマーハラスメントは消費者から従業員に対する攻撃行為ですから、企業内で規制することができませんし、防止法を制定することも不可能です。2018年に厚労省はカスハラ対策の方針として、「消費者の啓蒙」を上げましたがナンセンスです。消費者教育によって悪質クレーマーの行為が是正できる訳がありません。
     カスタマーハラスメント対策は、事業経営者自らが対抗策を考え、具体的な対抗手段を講じていかなければ、誰も助けてくれません。放置しておくとどうなるでしょうか?私が関わった多くの事例では、相談員や主任がハラスメント家族に対抗しようとしてない管理者に失望した他の法人に移って行きました。介護業界ではカスハラ対策の無策で、人材の流出による経営危機が起きると考えられます。
    ■カスタマーハラスメント対策の取り組み方
     では、カスタマーハラスメント対策はどのように取り組んだら良いのでしょうか?まず、各施設で取り組んでも決して成功しません。必ず法人全体で取り組みの体制を作ることから始めなければなりません。手順を示しますので参考にしてください。
    1.カスタマーハラスメント防止への法人の体制構築
     ➡本部担当者と施設管理者でプロジェクトチームを作り、取り組みの準備として法人でカスタマーハラスメントの定義を決めます。
    2.カスタマーハラスメント防止の取り組みを周知(職員と利用者・家族)
     ➡法人の取り組み方針と定義を、職員と利用者家族に周知するため案内を発送し、ポスターを作り施設内に掲示します。
    3.カスタマーハラスメントの実態調査と個別取り組み案件の把握
     ➡職員全員にアンケート調査を実施し、ハラスメントの実態と個別案件を把握します。個別案件については、ハラスメント行為の内容と被害の状況を職員本人に確認します。
    4.ハラスメント行為の評価と個別案件への対抗策検討
     ➡個別のハラスメント案件の違法性などを評価の上、法的措置などの対抗手段を検討し弁護士などに確認します。
    5.法的措置を前提とした個別案件への対抗
     ➡刑事告発・契約解除など法的対抗措置を明示して通知し、ハラスメント行為の中止を要求します。
    ■カスタマーハラスメントの定義を決める
     前述のような手順で取り組みを進めますが、一番の難問はカスタマーハラスメントの定義を決めることのです。厚労省のサイトには、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」と「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」という2つのマニュアルが掲載されていますが、参考になりません。
    次に重要なことはカスタマーハラスメント行為があった時、これらの行為がどのような行為かを評価して可能な法的措置を検討することです。例えば、職員に向かって「ぶっ殺すぞ!」と相手が言えば、これは脅迫罪という刑法に抵触する犯罪行為ですから、警察に告発するなどの厳しい対抗措置も可能になるのです。私たちは、次の表のように4種類に大別して評価をしています。
    (A)違法行為:暴力行為やわいせつ行為などの違法行為で刑法に抵触すれば犯罪行為
    (B)不法行為:相手の権利を侵害する行為によって損害を与える
    (C)債務不履行:契約上の規定に違反する行為または不誠実な行為
    (D)法的対抗措置不可:上記に該当しないが職員の健康被害につながる恐れがある行為
    ■カスタマーハラスメントを止めさせるには
     相手の行為に対して法的対抗措置が明確になえれば、職員の被害が大きくなる前に迅速に対抗措置を示して、ハラスメント行為の中止を要求します。しかし、相手の責任能力や判断能力によって、その対応方法や相手が異なります。家族からのハラスメントであれば、ストレートに「ハラスメントを止めなければ契約を解除する」と迫ることができますが、認知症の利用者の行為であればそうはいきません。
     しかし、認知症の利用者の行為であっても実際に職員の被害が発生していれば、改善の必要性は同じです。例えば、認知症の利用者だから少しくらいのセクハラは仕方ない」と諦めるベテラン職員が居ますが、若い職員には大きな苦痛になりますから是正しなければなりません。最悪、精神患者として拘束することもあり得ます。
     介護業界の従業員はサービス提供の対象がハンディがあるということだけで、職員がある程度犠牲になる

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    「医療体制万全」と謳う住宅型有料老人ホームに入所したら認知症が悪化した!

    《検討事例》                   ≫[関連資料・動画はこちらから] 
    パーキンソン病の利用者Dさん(78歳男性)は居宅で転倒し、大たい骨を骨折しましたが、入院治療の後無事に退院することになりました。ところが、Dさんは退院を前にして夜中に大声を上げるなどの認知症の症状が現れました。居宅での介護に不安を感じた息子さんは、病院の地域医療連携室から「看護師常駐で医療体制が万全の有料ホームがオープンしたからどうか」と勧められ、早速見学に行きました。この施設は同じ建物内に診療所・訪問看護・訪問介護を併設しており、常時切れ目のない手厚いケアをアピールしていました。応対した看護長は「当施設は医療体制が充実しており、看護師が万全のサポートをしますからパーキンソン病の方もお勧めします」と強調しました。息子さんが心配した認知症についても「パンフレットにもある通り認知症の方も安心して暮らせます」と付け加えました。
     息子さんはすぐにケアマネジャーに連絡して、病院から直接施設に入所することができました。ところが、1週間後に息子さんがDさんに面会に行くと、「こんな監獄みたいなところは嫌だ!閉じ込められている人が部屋の隅に座っている」と強く訴えました。息子さんが看護長に「医療体制万全で認知症があっても安心と言ったのに、認知症が急に悪くなったじゃないか」と抗議しました。看護長は「認知症があっても安心というのは、退所要求されないという意味で、認知症が良くなるということではありません」と答えました。

    《事例検討解説》
    ■看護師常駐は医療体制万全ではない
    開設したばかりの施設は、短期間でベッドを稼働させたいという思いが強く、利用者側の誤解を招くような誇大な説明をすることがあります。ですから、開設直後に入所した利用者との間には、「こんなはずではなかった」というような利用者側の過大な期待が原因でトラブルが多く発生します。開設時にはパンフレットの語句など施設のセールスポイントのアピール方法についても、誤解を招かないようチェックが必要です。
     本事例では、「医療体制が万全」というセールストークを使っていますが、これは不適切な説明ですから改めなければなりません(法規制に抵触するおそれがあります)。家族の中にはこの言葉から「疾患の治療に前向きに取り組んでくれる」と、謝った過大な期待をする人がいるかもしれません。病院ではないので医療体制が万全な訳がありませんから、「看護体制が充実」という程度に留めておくのが適当でしょう。また、「認知症があっても安心して暮らせる」という良く耳にする謳い文句も、認知症のケアが充実していると言う意味に解釈することもできます。しかし、多くの場合この施設同様、認知症があっても退所要求をされないという消極的な安心でしかありません。
    ■Dさんの息子さんのニーズは認知症ケアである
    Dさんの息子さんが「居宅では介護ができない」と不安を抱いた理由は、Dさんが認知症を発症したことです。終末期でなければパーキンソン病は、在宅でも介護できる人はたくさんいます。つまり、施設に対するDさんの期待は医療体制ではなく、認知症への手厚い対応だったのです。ですから、息子さんはDさんの認知症が悪化したことに対して、「認知症があっても安心と言ったのに、認知症が急に悪くなったじゃないか」強く抗議したのです。サ高住なども同様に、家族が在宅で介護できない理由や施設へのニーズをきちんと把握して、施設の機能が利用者のニーズに応えられるのか冷静に見極めなければなりません。
    病院の地域医療連携室の対応にも同じような問題があります。「在宅で介護できないから部屋が空いている施設を探せば良い」というカタチだけの対応では困ります。この利用者のケアのニーズをていねいにくみ取って対応できる施設の情報が必要ですし、在宅のケアマネジャーとの連携なしに満足の行く対応はできないはずです。
    在宅復帰に力を入れるリハビリ重視の老健であるのに、ベッドが空いているからと身体障害の無いBPSDが重度な利用者を受け入れてしまった事例もあります。激しいBPSDに職員が対応しきれず退所を迫ったため、大きなトラブルになりました。入所施設を探す家族の多くが切迫した事情を抱えており、多少のニーズのミスマッチには目をつぶってしまいますが、受け入れる施設側がこれを検証し指摘しなければ後で必ずトラブルにつながります。
    ■医療体制よりも認知症ケアの知識は不可欠
    本事例のトラブルは、家族の認知症ケアのニーズと医療依存度の高い利用者に的を絞った介護サービスのミスマッチが原因でした。しかし、このような認知症ケアの機能が低い介護サービスは成立するのでしょうか?認知症のない医療依存度の高い利用者だけ入所募集しても、入所後に重篤な認知症を発症した場合どのように対応するのでしょうか?
    医療依存度の高い利用者で、重篤な認知症を発症する人はたくさんおり、このような利用者に対しては適切な医療サービスを提供することすら困難になります。今や高齢者施設だけでなく、医療機関でも患者の高齢化に伴って、認知症のケアの知識やノウハウが無ければ適切なサービス提供ができなくなっているのです。
    ある医療対応型の施設の看護師で、イレウスの治療薬である座薬を認知症の利用者と格闘しながら挿入している人がいました。看護師本人は利用者にケガをさせた時の責任を心配していましたが、「なぜ嫌がる認知症の利用者の肛門に座薬を無理に挿入するのか」と問いただすと、「医師の指示だから」が答えでした。医師に認知症の状態を伝えて他の服薬方法を考えてもらうのが、高齢者に対応する看護師の役割です。
    ■Dさんは本当にパーキンソン病か?
    ところで、Dさんは本当にパーキンソン病なのでしょうか?パーキンソン病は手の振戦、小刻み歩行やすくみ足、筋肉のこわばりなどその症状が特徴的で分かりやすい神経障害ですが、初期症状はレビー小体型認知症も同じです。ですから、パーキンソン病と診断された人の3割は実はレビー小体型認知症であるとも言われています。そして、レビー小体型認知症の利用者の大きな特徴は、幻覚(幻視や幻聴)などのBPSDが発生することです。
     するとDさんが「人が部屋の隅に座っている」と訴えているのは、レビー小体型認知症の症状かもしれません。認知症利用者のBPSDに対しては、非薬物介入が原則であり薬物投与においても、抗精神病薬の投与は慎重であるべきとされています。特にレビー小体型認知症の幻覚などのBPSDには、抗精神病薬の過敏性が指摘されていて症状を悪化させるとされていますし、逆にドネペジル塩酸塩や抑肝散についてはその効果も報告されています。医療体制が万全と謳うのであれば、認知症利用者への医療的な対応についても専門性を持ってほしいものです。

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    運転を止めるように説得していて、自動車事故トラブルに巻き込まれたケアマネジャー

    《検討事例》
    Kさんは妻と二人暮らしの郊外に住んでいる72歳の男性です。3年前に軽い脳梗塞を患いましたが、幸い麻痺などの障害は残りませんでした。ところが、ある時から物忘れが多くなり、最寄り駅から自宅へ帰る道が分からなくなり、妻が迎えに行くということが2回ありました。心配した妻が説得し病院を受診すると、軽度の脳血管性認知症と診断され、この時に要支援の要介護認定(認知生活自立度Ⅱ)を受けました。
    妻が免許を持っていないため、買い物に行く時にはKさんが車を運転していましたが、ケアマネジャーの勧めによって週2回の生活援助のヘルパーを入れることで、買い物などの用事をやってもらえるようになりました。ところが、ケアマネジャーが月1回のモニタリングで訪問した際、妻から次のような相談を受けました。妻曰く「主人の車の運転を止めてくれない。駐車場の場所を間違えたり駐車場所が曲がっていて、近所から苦情を言われている。何とかならないか?」というのです。
    ケアマネジャーはKさんに「もうお年ですから車の運転は控えましょう」と話しましたが、「自分は安全運転をしている。妻は免許が無いので私が車で用事を足さなければならない。ヘルパーに買い物をしてもらっても、医者や銀行にも行かなければならない」と聞き入れてくれません。ケアマネジャーは妻に「根気よく説得しましょう」と説得を約束してくれました。
    その後妻が近所の苦情に対して「ケアマネジャーさんが一生懸命説得している」と話したことから、ケアマネジャーに近所の人から直接苦情が来るようになりました。ある日、近所に住んでいるKさんの長男から電話があり「父が車で近所の子供と接触してケガをさせたが、自動車保険は更新忘れで使えないらしい。被害者の親に会って話をして欲しい」と言ってきたので、仕方なくお会いすることにしました。しかし、ケアマネジャーが被害者の自宅を訪問すると、「保険会社はどうしたのか?あなたは何の権利があってここに来たのだ」と面談を拒否されました。翌日、被害者の保険会社から電話があり、「無保険車との事故なので被害者自身の自動車保険で補償をするが、あなたが加害者の代わりに示談交渉に介入するのは法律に反する行為なので、場合によってはあなたを訴える」と言われてしまいました。

    《事例検討解説》
    ■交通事故の交渉にケアマネジャーは介入してはいけない
     本事例ではケアマネジャーが好意から家族の相談に乗っているうちに、問題の当事者のような立場になってしまい、ケアマネジャーの職務権限を逸脱して法律上許されていない交通事故の示談交渉に介入してしまいました。この法律上の問題と自動車保険の仕組についてお話ししましょう。
     交通事故のような損害賠償の示談交渉に他人が本人の代わりに示談に加入することは法律で禁じられています(弁護士法72条)。示談代行付の自動車保険は特別に保険会社の社員が示談に介入することが認められていますが、これは損害保険協会と日弁連が協議して認めたことによるものです。簡単に言えば自動車保険が適用される場合の保険会社の社員と弁護士以外は、他人が示談交渉に介入すれば法律違反になるのです。ちなみに、本事例で被害者が自らの保険で自らの被害を保証しましたが、これは人身傷害という特約によるもので、無保険車の被害に遭った時自分の保険で救済ができるという制度です(ただし、支払った保険金は加害者に求償されます)。
     さて、このケアマネジャーは上記のような自動車事故に関する法律や保険の仕組みの知識も無かったため、職務権限を逸脱して法律違反の行為をしてしまいましたが、それ以前にKさんの自動車の運転を止めるように説得するのはケアマネジャーの業務だったのでしょうか?
     実はこの利用者の家族からの様々な相談や依頼にどこまで応えて良いのか、ケアマネジャーが適切な判断ができないことに、上記のようなトラブルに巻き込まれる危険が潜んでいます。「主人が運転を止めなくて困っている」「運転を止めるように説得して欲しい」と相談されたら、多くのケアマネジャーが相談に乗ってしまうのではないでしょうか?利用者の家族の私的な問題に対して、ケアマネジャーはどこまで関わるべきなのか、その基準も歯止めも無いことが問題なのです。
     ■家族の問題にどこまで介入して良いのか基準がない
    ケアマネジャーの業務を辞書で調べればおおよそ次のように書かれています。「ケアマネジャー(介護支援専門員)は、介護が必要な方の心身の状態に合わせて、介護サービスの計画(ケアプラン)を立案し、介護サービス運営者と連絡調整を行い、実際に介護サービスを受けられるよう手配を行う。また、介護認定のための申請代行も担当します。その後はサービス事業者と利用者との情報交換からケアプランを随時改善する」と。
    しかし、実態は月1回の定期訪問で家族から持ち掛けられる相談内容は多岐に亘り、さながらケースワーカーの業務のような「社会生活で直面する諸問題のヨロズ相談係」と化しています。このような私的な相談に対して、「私たちケアマネジャーの仕事はケアマネジメントとこれらに付随する相談業務ですので、ご家族の私的な問題についてご相談に乗ることはできないのです」ときっぱり断れれば問題はありません。しかし、相手はもっと上手です。まず、「ねえ、ちょっと聞いてくれない?」と始まります。家族の問題を聞いてしまうと、次は「ねえ、どうしたらいいと思う?」と問いかけてきます。ここで、ケアマネジャーが意見を言えば「じゃ、○○してくれない」と頼りにされることになり、後に引けなくなります。悩み事を聞いてしまってアドバイスまでしてしまうと、この時点でスパッと断ることはまずできません。ここまでは仕方ないかもしれません。お年寄りは依存心が強いですし、頼られた上でNoと言えば相手の気分を害します。
    ただし、ケアマネジャーはこの時点で自分が介入して良い問題かどうかを、しっかり判断しなくてはなりません。ケアマネジャーの研修で取り上げられるケース検討でも、利用者の処遇ばかりで家族の私的な問題に対する対応スタンスが明確ではありません、事業所内でもその基準(限度)が不明確です。居宅介護支援事業所では利用者や家族の私的な相談に対して、「どこまで関わるべきか」「どこまで関わることができるのか?」「どこまで関わっても良いのか?」など判断基準を決めて、ズルズルと巻き込まれないようにしなくてはなりません。
    ■私的な相談に対しては息子や娘の協力を得なければ解決しない
    こんなトラブルもありました。キーパーソンの長女からは、「次女から連絡があっても絶対に父には取り次がないで」と依頼されていましたが、利用者本人は次女に会いたがります。ケアマネジャーは、本人の意思を尊重して、次女が連絡してきた時に勝手に判断して利用者に会わせてしまいました。当然キーパーソンの長女とは大きなトラブルとなり、ケアマネジャーを解任されてしまいました。実は過去に次女は資産家である利用者から多額の金の無心をしており、資産の管理は全て弁護士に任されていたのです。事情を知らないとは言え、ケアマネジャーとして大きな失態であり居宅介護支援事業所の信頼は大きく傷つきました。介護サービスの提供では利用者本人に考えることは大切ですが、家庭には家庭の事情がありますから、勝手に立ち入ると大きなトラブルになります。
    では、先ほどの自動車の運転を止めないKさんの奥様からの依頼は、どのように対応すべきだったのでしょうか?まず、Kさんが運転を誤り近隣の人を自動車で死亡させたとしたら、何が起こるでしょう?自動車保険が更新忘れで無保険ですから多額の賠償金は自己負担ですが、おそらく矢面に立たされるのはKさん本人ではなく長男でしょう。最悪の場合、今の住居に住んでいられなくなるかもしれません。こうした最悪の想定をしてみれば、Kさんの車の運転を止めさせるのは長男の役割が大きいことが分かります。利用者の妻は気軽に他人に相談をしますが、最終的に事故などの責任を問われるのは過程全体です。もし、ケアマネジャーが長男にKさんの自動車の運転について相談していたら、長男がKさんに強く意見して運転を止めさせたのではないでしょうか?

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    ヘルパーが「足に傷が付いた」と報告してきたが、実は大きな裂傷で家族トラブルへ

    《検討事例》                   ≫[関連資料・動画はこちらから] 
    A訪問介護事業所は365日体制で稼働しているので、土日は職員が交替勤務です。ある土曜日、ヘルパーが利用者Nさんの入浴介助の前に、車椅子とシャワーチェアーを入れ替えようとして、つかまり立ちさせて車椅子を引きました。この時フットレストが下がって足にぶつかり、左足膝下に裂傷を負ったため、ご主人が「受診する」と言って車でK病院へ向かいました。ヘルパーは事務所に電話を入れて「車椅子のフットレストが利用者の足に接触して傷ができ、“念のため受診する”と言ってご主人が車でK病院に向かった」と報告しました。Nさんの担当サービス提供責任者は休日だったため、対応した当番職員は1時間後にNさん宅に電話を入れましたが不在でした。職員は翌日の当番職員に電話を入れて状況を確認するようメモを残しました。翌日当番職員が「奥様のご様子はどうですか?」と状況確認の電話を入れましたが、ご主人は「生きてるよ」と言って電話を切ってしまいました。月曜日の朝に、所長から電話を入れ担当のサービス提供責任者とお詫びの訪問をしました。傷は予想以上に深く8針縫うケガであり、ご主人は「事故当日、病院から帰宅した時に謝りに来ると思っていた。翌日、何も知らない職員が電話で“様子はどうですか?”とはなんだ」と激怒されました。ヘルパーが正確な事故報告をしなかったことがトラブルの原因と考え、以後正確に報告するよう厳しく指導しました。

    《事例検討解説》
    ■ヘルパーを厳しく指導しても再発防止策にならない
    このトラブルの原因はたくさんの要因が絡み合っていますから、きちんと検証しなければなりません。もちろん、8針縫うようなケガを“傷ができた”と報告してきたヘルパーは、配慮がありませんし責任重大です。それどころか車椅子からシャワーチェアへの移乗の介助時に、利用者をつかまり立ちさせて車椅子とシャワーチェアを入れ替えるのはルール違反です。転倒やフットレストの接触など事故の原因になるからです。移乗の介助は無精をせずに、利用者の身体を移乗させるというルールを徹底しなければなりません。
     このように、基本的な安全ルールを無視した過失は責任重大ですからヘルパーの指導も重要ですが、人は大きな過失(ミス)で事故を起こした時に、本能的にその損害を軽く見せかけようとする傾向があるので、事務所の職員はそのことも考慮した上で、慎重に対処すべきだったのです。つまり、ヘルパーの過失が大きいと判断した時点で報告を鵜呑みにせず、迅速に損害の確認をすべきだったのにこれを怠ったこともこのトラブルの大きな要因なのです。過失が大きな事故では迅速な謝罪や補償の説明など、被害者感情を考慮した対応が必要になるのでなおさらです。このように考えると必要な対応を迅速に行わなかった、訪問介護事業者の事務所の体制にも大きな問題があることが分かります。
    ■トラブルの原因は事務所の顧客対応体制
    では、このトラブルの原因となった訪問介護事業所の事務所体制の不備とは何でしょうか?まず、電話で報告を受けた職員は利用者の“傷”を確認する手配をしなくてはなりませんでした。また、翌日Nさん宅に電話を入れて一方的に電話を切られた職員も、ご主人の口調からクレームがあると考えて詳細な事情を聞き取るべきでした。対応に当たった二人の当番職員は自分の担当ではないので、他人事のような当事者意識の欠けた対応をしています。
     この事業所はサービス力向上のため365日稼働体制に変更した時に、職員の勤務体制を休日当番制にしただけで何ら特別な顧客対応の体制強化を図りませんでした。結果的にはサービス力は低下したのです。では、どのような体制を強化すれば良かったのでしょうか?自分の担当以外のお客様に対してもきめ細かく対応できるよう、全職員がお客様情報を共有すれば良いのでしょうか?
    しかし、どんなに他の担当顧客の情報を共有しても限界があります。Nさんが血栓予防薬を飲んでいて、ご主人が几帳面な性格で、ヘルパーの性格から報告の信憑性も低いなど、このトラブルを回避するための情報を全ての職員が共有することなどとても無理な話です。
     この事業所では、ほんの少し対応を変えるだけで休日のトラブルにも適切に対応できるようになりました。では、どのように対応を変えたのでしょうか?
    ■休日当番制だからこそ顧客対応への工夫が必要
    Nさんの担当サービス提供責任者の立場で考えれば答えは簡単です。休日だったこの職員は土日の2日間何も知らずに、月曜日に出勤した途端に大きなトラブル処理に直面するのです。もし、土曜日の事故直後に担当サービス提供責任者が事故の知らせを受けていれば、「Nさんのご主人は几帳面で細かい人だから病院に顔を出しておいた方が良いだろう」という適切な判断ができたかもしれないのです。もちろん、誰も休日に出勤したくはありません。しかし、ちょっと病院に行くだけで大きなトラブルが避けられるのであれば、誰もが知らせを受ける方を選ぶでしょう。結局大きなトラブルを最終的に処理するのは自分なのですから。
    この事業所では、「担当者が休日の時お客様やヘルパーから、事故またはクレームの連絡が入った場合、担当サービス提供責任者の携帯に一報を入れる」というルールに変えたのです。携帯に出られなければ伝言を残せば良いですし、連絡を受けた休日の職員が対応できなければ、当番職員に細かい対応指示を出す、というルールになりました。この事故・クレーム発生時の休日対応のルールに反対する職員は一人も居ませんでした。たとえ休日に対応することがあっても、自分の仕事が楽になるからです。事故やクレームが発生した場合、そのお客様の情報に最も詳しい職員が対応すれば、万全の対応が期待できます。
    ■居宅サービスは事務所体制の脆弱さが問題
     この事例のように、訪問介護事業所を初めとする居宅サービスの事業所は、脆弱な事務所体制が原因で様々なトラブルが発生しています。居宅にヘルパーを派遣する仕事ですから、事務所の顧客対応体制を軽視しているのです。たとえば、お客様が事務所に来ることを想定していないため、お客様に対応する場所さえ確保していない事務所もあります。クレームを訴えに来たお客様に対して、カウンター越しに立たせたまま対応する企業はどこにもありません。
     また、職員が外から事務所に戻ってくると、留守中に入った電話が「○○さんから連絡あり」とだけ伝言メモに走り書きされていて、デスクにテープでたくさん貼ってあります。職員は片っぱしから電話を入れるとメモをゴミ箱に捨ててしまいます。職員個々の電話連絡帳が無いのです。お客様やヘルパーなどから入る連絡は、危機管理上極めて大切な情報ですから記録として保存されていなければなりません。電話連絡帳の内容を定期的にチェックしてみると、クレームや不祥事の予兆に気付くことがあるからです。
     訪問介護事業所は一般企業の事務所の業務体制に比べて、顧客サービスという観点からも危機管理という観点からも、ひどく見劣りします。「他人様の居宅に職員が訪問して提供するサービスである」ということの意味を、もう一度考え直して欲しいと思います。

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    食事にガラスの破片が混入、舌を切って経鼻経管になった利用者が肺炎で死亡

    《検討事例》                   ≫[関連資料・動画はこちらから] 
    Hさん(88歳女性)は要介護度4の老人保健施設の入所者で重度の認知症があります。ある日、昼食のカレーライスを自分で食べていましたが、突然口をモゴモゴし始めました。不審に思った職員が調べてみると、Hさんの口から厚さ5mm大きさ2㎝四方のガラスの破片が出てきました。口腔内を調べると舌を3㎝ほど切って出血しています。職員はすぐにガラス片を取り除き、看護師を呼びました。
    傷は浅く看護師は救急搬送の必要は無いと判断し、止血のためにガーゼで舌の表面を強く押さえました。Hさんが暴れて処置に手間取りましたが、10分ほどで止血ができ軟膏を塗りました。看護師は「口を良く洗って清潔にして」と言って職員に任せ、相談員が家族に連絡して謝罪し、「止血したので大丈夫」と説明しました。ところが、2時間ほど経ってまた傷口が開き出血したため、家族連絡の上総合病院の口腔外科を受診し、炭酸ガスレーザーによる治療で比較的簡単に治療が終わりました。
    家族は、食事にガラスの破片が混入してケガをしたことに強く抗議し、事務長は謝罪した上で「厨房でミキサーを破損したことが原因。給食事業者に二度とこのようなことが起きないよう厳しく注意した」と説明しました。Hさんは、その後痛みで食事が摂れなくなり、施設では鎮痛剤と安定剤を処方して2日ほど点滴で様子をみましたが、しばらく経鼻経管栄養で傷の回復を待つことにしました。
    ところが、経鼻経管にした4日後に急性肺炎で緊急入院し、5日後に亡くなりました。家族は、「死んだのは舌の傷が原因」として、施設の責任を追及する構えですが、事務長は謝罪するだけで「補償については給食事業者が責任を持って行う」と言うばかりで、無責任な施設の態度に腹を立てた家族は、裁判を起こすと言っています。

    《事例検討解説》
    ■応急処置に手間取り適切な傷の治療が遅れた
    ガラスで切った舌の傷を処置した経験がある看護師は少ないかもしれませんが、舌の裂傷に対して看護師の応急処置は正しかったのでしょうか?傷は浅いのですから止血をして傷がすぐに治れば問題ありませんが、口腔内の傷はもとより舌の傷は大変厄介です。ガーゼによる圧迫で血は止まっても、強く洗うと再び出血してしまいます。また、傷の治りが悪ければ経口摂取に支障が出て、低栄養や体力低下など他の問題を引き起こします。
     本来は、すぐに炭酸ガスレーザー治療ができる歯科を探して、迅速に受診すべきだったのです。口腔外科を受診しなくても、炭酸ガスレーザー治療ができる歯科医院は、比較的簡単に見つかりますし、レーザー治療は歯茎や舌の傷に対して止血効果や鎮痛効果にも優れ、傷の治りも早くなります。ガーゼで圧迫して止血し、軟膏(ケナログなど)を塗っても、強く洗えば軟膏の効果は無く再び出血してしまいます。本事例では、舌の傷の処置の間違いがその後の傷の治りにも影響して、最悪の結果につながってしまったのです。
     しかし、施設の看護師がこの厄介な口腔内の傷の処置について、必ず知識を持っている訳ではありません。ではこのような場合どうしたら良いのでしょうか?緊急性も重篤性も無く救急車の要請の必要が無い場合でも、処置が難しい場合は「119番に相談する」と決めておくと良いでしょう。119番に電話して「私は看護師ですがガラスで舌を切ってしまった患者の処置について聞きたい」と言えば、処置のアドバイスや専門医の紹介など様々な援助をしてくれるのです。消防局では不要な救急車の出動を減らすために、相談機能を強化していて、医療資格者からの処置の相談などにていねいに対応しています(東京都や横浜市は相談センターを立ち上げています※)。
    ※東京都:救急相談センター(#7199または03-3212-2323)、横浜市:救急医療情報センター(#7499または045-227-7499)
    ■ガラス片による舌のケガで肺炎による死亡につながった
    家族は、「食事へのガラス片の混入によるケガが死亡と言う結果につながった」として、施設側の過失責任を問う構えですが、施設は過失責任を問われるのでしょうか?もちろん、食事への異物混入によるケガですから、施設側の過失があるのは明白ですし、舌のケガについても施設の責任は免れないでしょう。しかし、舌のケガと肺炎で亡くなったことに因果関係があるのでしょうか?死亡したことも、施設側の過失と言えるのでしょうか?
    法律の専門家ではありませんので確実なことは申し上げられませんが、おそらく裁判になったら死亡に対する因果関係が認められる可能性も強いと思われます。因果関係の認定のポイントは次の3点です。
    ①舌の傷の処置を誤ったことが原因で、経口摂取が困難になり経鼻経管にしていること。
    ②重度の認知症の利用者に対する経鼻経管では、栄養剤が気管に侵入するリスクが高いこと。
    ③経鼻経管にして4日後に急性肺炎を発症していること。
    特に、「舌の傷が回復するまでしばらく経鼻経管」と、重度認知症の利用者に対して、安易に経鼻経管を選択していることに問題があります。いずれにしても、施設では因果関係があるとの前提でていねいな対応を徹底しなければなりませんでした。
    ■事故の対応を業者任せにして家族トラブルを大きくした
    次にこのトラブルで家族の感情を逆なでにしたのは、施設側の無責任な対応、すなわち給食業者に被害者対応を押し付けてしまったことです。たとえ、事故の原因が給食業者の過失であっても、施設は被害者に対して「給食事業者に賠償請求して下さい」と主張することはできません。なぜなら、施設と被害者は入所契約という契約関係にあり、被害者はこの契約関係に基づく安全配慮義務違反を理由に賠償請求をするからです。
    施設は契約当事者として過失責任(損害賠償責任)を負いますから、過失があるのであれば施設が直接被害者に対応し、直接賠償金の支払いを行わなければなりません。給食事業者の過失の責任を追及するのは、給食事業者と請負契約の関係にある施設の役割であって被害者ではありません。
    最近では、施設は送迎車両などでも外注の事業者を使うことが多くなりましたが、外注業者が起こした事故でも、施設業務であれば施設が直接責任を負わなくてはなりませんから注意が必要です。
    ■厨房の安全管理を給食業者任せにしている
     最後に施設は外注の給食事業者に対して、異物混入防止などの事故防止対策を任せきりにしています。給食事業者に「二度とこのようなことが起きないよう厳しく注意」すれば、再発を防止できるでしょうか?実は、外注の給食事業者による食事への異物混入は頻繁に起きており、大きな問題なのです(皆様の施設でも心当たりがありませんか?)。
     ハッキリ言えば、給食事業者に注意したくらいでは異物混入は防止できないのが現状です。施設で異物混入のための厳しいルールを作って、「守れなければ外注契約は破棄」という厳しい姿勢で臨まなければなりません。参考にある施設が作った異物混入防止のルールの一部(食器や容器の破損)をご紹介しましょう。
    ①食器や調理用具が破損したら(床への落下でも)、破損場所から3m以内の食材と料理を廃棄する。
    ②3m超離れた食材や料理は2人で目視チェックし、混入が確認されたら全ての食材と料理を廃棄する。
    ③調理台より高い位置で破損が起こった場合は、厨房内の食材と料理を全て廃棄する。
    ④事故により食事の提供が不可能な場合は、代わりの事業者の責任で代わりの食事を手配する。
    ⑤事業者が代わりの食事を手配できない場合には、レトルト食品などを施設で調達して提供する。
     本事例では、厨房でミキサーを落としてガラスが飛散したにもかかわらず、「調理済みの料理を廃棄する訳には行かない」として、そのまま料理を提供したことが分かりました。料理が提供できないとなれば信用に傷が付きますから、安全を優先できなくなってしまうのです。外注事業者と施設で協力して事故を防ぐ体制を作ることが必要です。

  • 02/22
    2025
    2025.02.22
    ショートステイで緩んだ入れ歯が外れて破損、「施設が預かるべき」という家族

    《検討事例》                   ≫[関連資料・動画はこちらから] 
    Sさん(96歳女性)は認知症のある利用者で、月1回M特養併設のショートステイを利用しています。Sさんは義歯(総入れ歯)が合わなくなっており、就寝時に口から外れてしまうことがありますが、認知症が重く自分で義歯を安全に管理することができません。初回利用時に、家族が介護職にそのように言うと「夜寝る時には入れ歯はこちらで保管しておきますね」と言ってくれたので、毎回就寝時には義歯を保管してもらっていました。
    ある時、夜勤の介護職がSさんの義歯を保管せずに寝かせてしまったので、義歯が外れて布団の中で割れてしまいました。介護職はショートステイに異動したばかりだったので、Sさんの義歯を保管することを聞いていなかったのです。
    この報告を聞いた施設長は家族に対して次のように説明しました。「ケアマネジャーが作成したケアプランにも、こちらが作成した介護計画書にも“就寝時に義歯の保管が必要”とは、記載がありませんし、ご家族からもそのような依頼も受けたことがありません。従って、施設には義歯を保管する義務がありませんから、賠償することもできません。」
     家族は義歯が高価だったこともあり、この施設長の説明に納得できずに抗議しましたが受け入れられなかったため、後日市に苦情申立書を提出しました。
    《事例検討解説》
    ■認知症利用者の義歯について保管義務は無いか?
     本事例において、施設長が主張するように義歯の破損について、施設側に責任は無いのでしょうか?認知症があり自分で義歯を管理できない利用者に対して、施設は臥床時や就寝時に利用者の義歯を預かるなどの、義歯を安全に管理する義務はないのでしょうか?
     本事例の場合、初回利用時に就寝時には義歯を預かる必要性を家族に説明して、「入れ歯は施設側で保管する」と申し出ています。介護のプロが利用者のケアに必要な措置であると判断して家族に申し出て、その後も繰り返して実行しているのですから、ケアプランや介護計画書に記載がなくても契約として履行する義務が生ずるかもしれません。たとえ口頭であってもサービスの提供方法について、お客様と個別の約束をすれば、契約内容の一部とみなされ履行の義務が生ずることがあるのです。家族から義歯を保管するよう依頼があって、これを了承した場合も同じです。
     ですから、施設長は利用者から義歯を預かるようになった経緯をきちんと調べ、賠償責任の判断についてもっと慎重に検討しなければなりませんでした。
    ■利用者の身の回り品の管理のルールは?
    利用者がショートステイ利用時に身に付けてくるものはたくさんありますが、破損や紛失などのトラブルの原因になる高価な物は義歯だけではありません。高価な補聴器を紛失したことで、トラブルになった例はたくさんあります。では、利用者がショートステイに持ち込む装具や身の回り品などで、高価な物は全て施設側で預かり安全管理をしなくてはならないのでしょうか?
     ショートステイにおけるサービス提供の内容については、家族の要望やケアプランに沿って決める必要がありますが、「利用者の居宅での日常生活の状況や家族の介護方法に沿って必要なケアを提供すべき」であると考えられます。ですから、居宅でも家族が就寝時に義歯を保管しており、介護サービス提供上必要であれば義歯を保管しなければなりません。
     「破損の危険がある高価な物はお預かりします」というショートステイを良く聞きますが、あくまでも「利用者の生活に必要なケア」という観点で判断すべきで、高価な物かどうかは関係ありません。「総入れ歯が緩んでいて外れると困るので食事中は外して保管しておきます」という施設がありましたが、義歯は食事をするための装具であり、義歯が無ければ食事という大切な生活行為ができなくなってしまいます。義歯が外れないように歯科医師に調整してもらうか、その場は入れ歯安定剤で外れないようにすることが必要かもしれません。
    ■義歯が緩んでいることも大きなリスク
    施設側も家族も義歯が緩んで外れて破損することばかり気にしていますが、本来義歯が緩んでいること自体が問題なのですから、義歯が緩むことで発生する他のリスクについても家族に伝えなければなりません。義歯が緩んでいれば咀嚼がうまくできなくなりますから、誤えん事故の原因になるかもしれません。
    義歯が外れることで起こる事故はあまり知られていませんが、次のような事故も発生しています。
    ・食事中に総入れ歯を紛失し食卓や厨房の残飯なども全て調べたが見つからず、3日後利用者の排泄物の中から発見された。
    ・食事中に差し歯の金具が口腔上部の口蓋に刺さっており、口腔外科で処置をしたのが2時間だった。くしゃみをした弾みで外れて刺さったらしい。
    総入れ歯や差し歯などの義歯が合わなくなれば様々なリスクが生じますから、具体的なリスクを説明して義歯が暗転するような処置を家族に依頼する必要があります。食道に詰まるような事態になれば生命の危険にかかわることも考えられるのですから。
    ■義歯を外すことのリスクは無いのか?  
     最後に少し異なる視点から検証してみましょう。高価な義歯も多いので、施設も家族の義歯の安全管理ばかりを問題にして、「義歯を預かるべきかどうか」が論点になってしまいます。しかし、就寝時や臥床時に義歯を外してしまうことで、利用者の生活に与える悪影響があることも考慮しなければなりません。
     具体的には、総入れ歯を外して仰臥位で臥床すると、舌の位置が固定できずに舌根沈下(舌が喉の奥に落ち込んでしまう)を起こして気道を狭めるため、低酸素脳症となり意識障害を起こすことがあります。私たちが仰向けに寝ても舌の位置が安定しているのは、舌の先を前歯上部の根元に押し付けているからなのです。また歩行ができる利用者であれば、総入れ歯を外すことで歩行が不安定になり転倒事故の原因にもなります。ですから、義歯の安全だけに配慮するのではなく、義歯を外すことで起こる利用者の生活への悪影響についても家族にていねいに説明しなければなりません。

  • 02/21
    2025
    2025.02.21
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    2025年度より情報室通常会員向けに、リスクマネジメント基本課題の動画を常時配信します。年間22,000円でマニュアルダウンロードや動画ニュース配信など多彩なサービス。2025年度会員募集は3月25日までですのでお早めに。≫動画配信のご案内 ≫パンフレット

  • 02/19
    2025
    2025.02.19
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  • 02/18
    2025
    2025.02.18
    2025年度「対面・オンラインセミナー(事例検討ができる)」のご案内

    2025年度の対面・オンラインセミナーのリストをご案内させていただきます。来年度は新たにほとんどすべてのセミナーで、事例検討のグループ討議が可能になりました。セミナーデータから紹介動画・テキストや検討事例などがご覧いただけます。≫セミナーリスト

  • 02/10
    2025
    2025.02.10
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